桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
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最近美桜の様子がおかしい。
急にソワソワしたり顔を青くさせたり、を繰り返している。その理由に、俺は何となく気づいていた。それは伊藤啓汰の存在だ。あいつが現れてから美桜の様子がおかしくなった。さくらの心臓があいつを啓汰を呼んでいるのだろう。
美桜は臓器移植後の、記憶転移がかなり強く出ている。臓器の記憶転移とは臓器移植により、ドナーの記憶がレシピエントに転移するというもので、それらの現象は心臓移植した者に多く見られるという。
その美桜の心臓……さくらが、啓汰を求めているのだ。俺はそれを黙って見ていることしか出来ない。美桜が俺に相談してくれるなら何でも聞いてやるのに、何も話してこない。それもそうか、恋人に他の男性の相談が出来るほど美桜は図太い神経をしていない。それでも相談して欲しいと思う。
ああ、俺はなんて女々しいんだ。
自分で啓汰との事を聞くことも出来ないくせに、美桜には相談してもらいたいなんて。
仕事が終わり外に出ると、美桜と啓汰の姿があった。
「さくら……」
「啓汰」
恥ずかしそうに頬を染めた美桜の可愛い姿に唖然とした。俺以外にそんな顔をするな。そう叫びたくなった。その時、啓汰が美桜に駆け寄り抱きしめていた。二人はこんなにも引かれ会っている。それなのに俺は美桜を手放すことが出来ない。最低な人間だ。美桜の幸せのためには、年の離れた俺みたいなおじさんより、年の近い若い恋人の方が良いのに……。
俺はどうすれば……。
どうすれば良いんだ。