桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。

 *


「さくら」


 人懐っこい、わんこ系の笑顔で微笑むのは、伊藤啓汰さんだ。この笑顔を見ると心臓が忙しなく動き出す。さくらさんお願いだから大人しくしていて下さい。そう思うのに、体が勝手に熱くなってしまう。私が好きなのは正悟さんだというのに、どうしたら良いのか分からない。

「啓汰さん、私はさくらさんではありません。もう、何度も言いましたよ」

「うん。そうだったね。分かっているんだけど……」

 眉を寄せ、切なそうに私の身体の中心を見つめる啓汰さんの表情に、それ以上は強く言えなくなってしまう。

「ごめんね。美桜さん」

「あっ、いえ。いいんです」

 啓汰は休みのたびに祖父の見舞いだと言って必ずやって来て、美桜にちょっかいを出してくる。

「美桜さんの今度の休みに、何処かに出かけない?食事だけでも良いけど」

「啓汰さん私は……その……正悟さんとお付き合いをしているんです。それなのでその……そういうのは、ちょっと……」 

 そんな話をしていると、そこに正悟がやって来た。

「楽しそうな話をしているな?」

「正悟さん……あの……」

 言い淀む私を見ることもなく、正悟が啓汰の前に立った。

「行ってくれば良い」


 えっ?

 行ってくれば良いって……。

 私が男の人と出かけても平気なの?

 どうして?

 正悟さんが何を考えているのか分からない……。




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