桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
次の日曜日、私は啓汰さんとの待ち合わせ場所に急いでいた。正悟さんの態度や啓汰の事を考えながらベッドでゴロゴロしていると、時間はあっという間に過ぎていった。もう夜も更けているというのに全く眠くならず、明け方になりやっと眠りについたのはいいが、そのせいで寝坊してしまったのだ。10時の待ち合わせだというのに、すでに10分の遅刻。しかし、待ち合わせ場所に行くと満面の笑みで啓汰が手を振っていた。
「美桜さん!」
まるで本物の犬のような人懐っこい笑顔に、緊張が一気にほどけていくのを感じた。
「美桜さん、今日は俺の申し出に答えてくれて、ありがとうございます。楽しい一日にしますから」
そう言って啓汰に手を引かれ私は、公園へと向かって歩いていた。
手を繋ぐのはちょっと……と、躊躇しつつも手を離すことは出来なかった。
手を繋いだまま公園で散歩を楽しんでからゲームセンターへ行き、昼食はハンバーガーを二人で頬張った。午後はショッピングモールで雑貨屋さんなどを見て楽しんだ。正悟のことは頭の片隅にあるというのに、啓汰との時間を楽しんでしまう。啓汰と過ごす時間はあっという間に過ぎ、美桜のアパートの前までやって来た。
後は、さよならの言葉を言うだけ……そう思っていると、啓汰が思いがげない言葉を口にする。
「美桜さん……俺……さくらに会いたいんだ」
それはどういう意味なんだろうか?
さくらさんは私の中にいる。
ふとした瞬間さくらさんの記憶に意識が引っ張られることはあるが、それはいつも突然の事で、自分でコントロール出来る物ではない。美桜はどうしたら良いのか視線をさまよわせていると、啓汰が一歩美桜に近づき、美桜の心臓を指さした。
「直接、触りたいんだ……」
直接触る?
服の上からじゃなく?
肌に触れたいって事?
そんなことは出来ないと断ろうとしたが、啓汰の口から落胆したような『さくら』の言葉がこぼれ落ちた。
こんなにも、啓汰さんはさくらさんを思っている。
美桜は啓汰とさくらさんを会わせてあげたいと思った。
「触るだけですよ」
パッと顔を上げた啓汰がうれしそうな顔をした。
「はい。絶対に何もしませんから」