桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
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それから数週間後……。
突然、啓汰がやって来た。
あの日、美桜の手術痕を見た啓汰が、逃げ出すように美桜の部屋から出て行ってから、もう会うことも無いと思っていた。しかし、啓汰は思い詰めたような顔で美桜の前に現れた。
啓汰さん……少し痩せたかしら?
啓汰の頬は少し痩けた様に見え、目の下には隈が出来ている。唇もカサつきひび割れていて、食事や水分をきちんと摂っているのか心配になった。
「啓汰さん?大丈夫ですか?」
そっと啓汰を覗き込むと、両手を握り絞めながら啓汰が頭を下げた。
「美桜さん、すみませんでした。こんな俺を心配してくれる美桜さんを……傷つけてしまった」
あれから数週間、啓汰は悩み悔やんでいたのだろう。食事も喉を通らないほどに。
「啓汰さん、頭を上げて下さい。私は大丈夫ですから……私には正悟さんがいますから、大丈夫です」
正悟の名前が出たことで、啓汰の眉が寄った。
「美桜さんは、正悟さんが好きなんですね」
「はい。私は正悟さんが大好きです」
真っ直ぐ美桜は啓汰を見つめながら答えた。それが私の、さくらさんではない私の答えだと、分かってもらえるように。
「そっか……そうだよな。美桜さんはさくらじゃないもんな……分かっていたのにさ。俺……分かっていたのに、運命的に美桜さんに出会って、映画やドラマの主人公になったような気分だった。さくらが戻ってきて、俺をまた好きになってくれて、幸せになる。バカだよな……何も分かっていなかった。美桜さんの気持ちを無視して、自分の事ばかり。あの日、美桜さんの傷から逃げ出してしまったけど、さくらの事は本当に好きだったんだ。大好きだったんだ……」
啓汰のさくらを好きだという思いが、さくらに伝わったのか、美桜の心臓がトクンットクンッとうれしそうに動き出した。
まるで私も大好きよと答えるように動く心臓。
ごめんね。さくらさん……。
私はさくらさんの思いにも、啓汰さんの思いにも、答えることは出来ない。私が好きなのは正悟さんなのだから。
「美桜!」
その時、名前を呼ばれ右手を掴まれたかと思うと、目の前に壁が現れた。突然視界を遮られ驚いていると、美桜の耳に聞き慣れた、優しく心に響く声が聞こえてきた。
「美桜、大丈夫か?」
美桜を心配する声はとても優しいが、美桜が見上げた先で睨めつける正悟の瞳は鋭く、威圧的なものだった。