桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。


 それにしても7半て……。

 大体、女医の先生だと6号以下のことが多く、男の先生だと6.5号が多い。7号を使う先生だと手が大きなと思うのに7.5って。
 ちなみに5.5号や6.5号、7.5号などは5の半分、6の半分、7の半分という意味なのか5半、6半、7半と略して呼んだりする。

「手順は大丈夫か?」

 こちらの技量を心配しているのだろうか?

「大丈夫です。でも……その……」

 心配なのはそこでは無い。まったく知らない人間に、この場を任せても良いのかという不安が強かった。大きな体に、大きな手、髪はボサボサで前髪が長く、眼鏡を掛けているため表情が良くわからない、この男を本当に信用してしまってよいのか?
 
 しかし男はそんな美桜をチラリと一瞥すると、フッと口角を上げた。

 今、笑った?

 すると、なぜか美桜の心臓がトクリと音をたてて動き出した。

「大丈夫だ。この子を助けるぞ」

 男から発せられる優しく落ち着いた声に、響く声音に、美桜はうなずきながら返事を返した。

「はい!」

「まずは局所麻酔だ」

 美桜が男に5ccのピストンを手渡すと、用意していたキシロカイン(麻酔)を吸い未来の皮膚に刺していった。それからカテーテルを使い鎖骨下からゆっくりと心臓の中へとカテーテルを進めてい行く。男のその手際に良さと、判断力に美桜は唖然とした。

 すごい……。

 カテーテルを心臓の中まで進めた男は高周波電流を流して心臓の筋力を温めた。すると少しずつ不整脈だった脈が正常にもどっていく。

 この人は一体何なの?

 そう思いながら美桜はモニターに視線を向けると、未来の心臓の動きは正常な物へと変わっていて、顔も穏やかになり静かに眠っていた。

 良かったわ。顔色も良くなってきた。安定したみたいね。

 ホッと美桜が安堵の溜め息を付いていると、処置を終えた男も安堵の溜め息を付いていた。

「あなたは一体誰なんですか?ドクターなんですか?」

 ここで初めて美桜は男について質問した。

「俺は……」




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