桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。


 何かを思い出しそうな、靄のかかった脳内をかき分けるように記憶を探っていた美桜だったが、PHSから聞こえてきたうれしそうな声に、ハッと我に返った。

「わーー!シャボン玉がいっぱい」

 その声は病室で寝ている唯人くんのものだった。

 唯人くん?

 そうか、ここは唯人くんの部屋の斜め下、ここからシャボン玉を飛ばせば風に乗って唯人くんの病室まで飛んでいく。

「紬ちゃん。唯人くんの病室からシャボン玉が見えるって。すごく喜んでるよ」

「ほんと!」

 紬は唯人の病室に届けと一生懸命にシャボン玉を飛ばした。願いを込めた虹色の球体は冬の澄んだ蒼空へと消えていった。


 美桜は願う。

 子供達の平穏な日々を……。

 どうかこの優しい時間が続きますようにと……。




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