桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
美桜は何も言うことが出来ずに、その場に立ち尽くした。
「美桜さん。あの子本当に天使だと思わない?それなのに私は……っ。私は毎日のように誰かの死を願っている。誰かこの子のドナーになってくれないかと……毎日、毎日、誰かの死を願う……悪魔のような人間なのよ。最低な人間なの」
「…………」
美桜は唯人の母親の言葉に絶句した。何か言葉を掛けてあげなければ……そう思うのに言葉が出てこない。
唯人の母親は自分が悪魔のような人間だと言ったが、私はそうは思わない。
母親とはそういうものだと思うから。自分が変わってあげられるなら……自分の心臓があげられるなら……自分の子供のためなら何でもしてやりたい。そのためなら悪魔にだって自分の命さえも捧げても良い。そう思うものなのだろ。
自分の子供のために誰かの死を願い。
最低だと自分を罵る。
なんて悲痛な叫びなのだろうか。
それが人として間違った願いなのだろうか。
何も言えずに立ち尽くす美桜に、唯人の母親が全てを吐き出すように声を荒げた。
「自分の子供の命のために誰かの死を願う……最低な人間だってわかっている。それでも……それでもあの子に生きていてもらいたい……。生きてもらいたいの」
唯人の症状が悪化していく中、自分を保つのは大変な事なのだろう。ストレスもたまり、感情を露わにする唯人の母。美桜は唇を噛みしめ、自分の感情を抑え込む。
ここで私まで、心を乱してはいけない。
唯人の母親は崩れるようにして床に両膝をつき、両手で顔を覆うと瞳からポロポロと涙が溢れ出した。美桜は唯人の母親の背に手を当て、優しくさすってあげることしか出来なかった。