桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
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それから数日後、日に日に様態を悪化させていった唯人は、静かに息を引き取った。外では冷たい風が落葉をかき集め、カラカラと音を立てていた。時間は1分1秒と過ぎているというのに、ここだけ時間が止まってしまったかの様に静まり返っていた。ベッドの上で動かなくなってしまった唯人。元気ならこれからやりたいことが沢山あったことだろう。夢や希望もたくさんあっただろう。
しかし、唯人くんに未来はもう無い。
美桜は看護師として最後の仕事をこなしていた。唯人の体に付いていた点滴やモニターのコードを外していく。
「唯人くん。よく頑張ったね」
そう言ってから、心の中でも『頑張ったね』と呟きながら唯人くんの体をタオルを使い清め、死に化粧を軽く施す。それらが終わると家族を呼んだ。ゆっくりと病室に入って来た唯人の両親は、まるで眠っているかのようにベッドに横たわる唯人の姿に息を呑んだ。唯人の母親は唯人に駆け寄り、覆いかぶさるようにして抱きしめると泣き崩れた。
「唯人……唯人……唯人……唯人……」
何度も何度も、唯人の体を揺すりながら声を掛ける唯人の母親だが、唯人がそれに応える事はもう無い。
美桜はその様子を後ろから見つめ、唇を噛みしめた。
もっと何か出来ることがあったのでは無いか?
唯人くんがもっと笑顔で過ごせるよう、工夫は出来なかったか?
1分でも1秒でも長く生きる事が出来るように、何か出来ることは無かったのか?
考えればきりの無いことばかり。
自分の無能さに嫌気さえ覚える。
悔しい……。
私には何も出来ない。