桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
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午後になると陽希が紬の部屋へやって来るのが日課となっていた。しかし、今日の陽希はいつもと様子が違った。紬の部屋には来たものの、表情は無く出会った当初の頃のように、仄暗い瞳で真っ直ぐ前だけを向いていた。
そこへ紬の母親がやって来た。いつもは仕事のため夕方に来院するのだが、今日は仕事が午前中で終わり、早く見舞いに来れたという。紬の母親と陽希が合うのは初めてだった。
「あっ、お母さん。今日は早いんだね」
「今日は仕事が午前で終わったから……あら?あなたが、ひなちゃんかしら?紬が仲良くしてもらってる子よね?」
「…………」
何も答えない陽希に、紬の母親は優しく微笑みながら、話を続けた。
「最近この子ったらあなたの話しかしないのよ」
そう言いながら紬の母親は、紬の頭を愛おしそうに撫でた。母親の優しい手を紬もうれしそうに受け入れ、ニコニコと見つめ合っている。
その幸せそうな家族の様子を陽希は無表情で見つめた。