桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
*
紬の嬉しそうな顔と母親の表情に、陽希は目を背けた。
とんだ茶番だな。
陽希の心に、黒い靄のような物が広がり、ドス黒い感情で体が支配されていく。
反吐が出る。
あまりの嫌悪感に二人の顔を見ていられない。
陽希は二人から顔を背けると、何も言わずに部屋から飛び出した。
「あっ……ひなちゃん」
後ろから紬の声が聞こえてきたが、それを無視した。今振り返って口を開けば、きっと紬を傷つける言葉を吐いてしまう。
紬を傷つけたくない。
紬の部屋を飛び出して向かった先は、病院の屋上だった。ドス黒く染まった心が太陽の光を浴びることによって、少しでも洗われるにではないかと考えたからだ。しかし、太陽の光を浴びても何も変わらない。ドス黒い感情は増すばかり。
もう嫌だ、助けて……。