桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
屈託の無い笑顔を向けられると、うれしくて陽希も笑顔になった。本当の妹よりも紬の方が妹の様で、まるで家族が出来たかのような錯覚を覚えた。
父と母が私を捨ててから、初めて平穏な日々を過ごしていた。そんなある日、私の退院日が決まり、先生と話を終えた母が嫌そうな顔で病室に入ってきた。
「せっかく家族三人で、幸せに暮らしてたのに」
家族……三人……。
母、義父、義妹。
私は家族に含まれないんだね。
そうだよね。
私は透明人間で、存在してはいけない人間なんだから……家族にはなれない。
心が優しさを求めてしまったから、期待してしまっていた。そんな事があるわけ無いのに、退院の日に母が優しい言葉を掛けてくれるのではと思ってしまった……。
わかっていたのに……。
死ぬことが出来ず、自殺未遂に終わったあの日……ベッドの上で目覚めた私に、母は舌打ちを打ったんだ。
「チッ」と一度だけ……それだけ……。
母は私の荷物を置くと、自殺しようとした娘を一人残して帰って行った。少しは私に感心を示してくれるのではと思っていた、ほんの少しの期待が泡のように消えた。
舌打ち一回の価値しか私にはない。