桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
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陽希の瞳から涙がこぼれ落ちた。あふれ出る涙を拭うこともせず、陽希は病院の屋上から下を覗き込む。
死ななくては……。
私がいれば、母は幸せになれない。
屋上の落下防止の金網に両手と足を掛け上り出すと、紬の声が聞こえてきた。
「ひなちゃん、ダメ!」
紬の声を無視して金網を上っていると、左足を掴まれ引きずり落とされた。無理矢理金網から引きずり落とされたため、バランスを崩し陽希は、屋上のコンクリートに思いっきり尻餅をついてしまった。
「痛ったっ……紬、何やってるのよ」
「…………」
何も言わない紬に向かって陽希が声を荒げた。
「死なせてよ。私は死にたいのよ」
陽希のその言葉に紬の瞳が大きく見開かれ、ゆらりと立ち上がった。
「……どうして」
「えっ……」
「どうして死にたいの?死んでしまったら何も無くなっちゃうよ」
紬の視界が涙で歪んでいく。
「ひなちゃんはずるいよ。ひなちゃんは生きられるのに、どうしてこんなこと……」
「…………」
「ひなちゃんは生きられるのに……。これから楽しい未来があるかもしれないのに……。それでも死にたいなら、死ぬって言うなら、その心臓私にちょうだい。私の他にも心臓が欲しい人は沢山いるよ。唯人くんだってホントはもっと生きたかったのに……。ひなちゃんはずるい。何もしなくても生きることが出来るに……。ずるい!ずるい!ずるいよ!生きることをあきらめるな!」
屋上に紬の悲痛な叫び声が響き渡ると、紬が胸を押さえながらその場に崩れ落ちた。紬の額には汗がにじみ出し、ハァハァと苦しげに呼吸を来る返している。その様子を陽希は震えながら見つめることしか出来なかった。