桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。


 *::*


 紬と陽希が言い争いを始める少し前、屋上に正悟はやって来た。屋上から春の景色を想像し、目を細める。

「さくら……ここから桜が見えるかな。お前と同じ名前の花が……」

 一人の少女の姿を脳裏に浮かべる。

「さくら……」

 もう一度その名を呼び、正悟が天を仰いだ時、ガタンッと屋上の扉が開いた。


 *

「樋熊先生……」

 扉の向こうから気まずそうに美桜は、顔を出した。

「ああ、坂口さんか、何かあったか?」

「いえ……。別に何もないのですが、先生が屋上に行くのが見えたので来ちゃいました。今日はもう退勤ですよね?お疲れ様です」

 ニコリと笑う美桜を見て、正悟はフッと笑った。

「ああ、お疲れ様」

 正悟の優しく響く声音に背中がゾワゾワとする。正悟と交わる視線から逃れるため、美桜は目を逸らした。

「先生は無駄にイケメンボイスですよね」

 美桜の言葉に正悟が目を見開き、動きをピタリと止めた。

 正悟の過剰な反応に美桜は首を傾げる。

 一応褒め言葉だったんだけど、嫌だったかな?

 首を傾げる見桜の頭を正悟はワシワシと撫でた。

「ちょっ……先生髪が乱れちゃうじゃ無いですか」

「同じ事を言うお前が悪い」






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