桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
聞いたことのない声に驚いていると、屋上の扉が大きな音をたてた。勢いよく開かれた扉へと視線を向けると、そこから飛び出してきたのは陽希だった。走ってきたのか、陽希は乱れた息を整えようと肺の中いっぱいに空気を取り込もうと呼吸を繰り返している。奥にいた美桜と正悟の姿に気づかない様子で、屋上から下を見つめていた。大人びた陽希の横顔に冷たい風があたり、黒く長い髪がサラサラと風に揺れている。
思い詰めた顔……嫌な予感がする。
そう思った時には、陽希が金網に手を掛け上り始めた。一瞬何が起こっているのかわからず、美桜が思考停止していると、今度は紬の大きな声が聞こえてきた。
「ひなちゃん、ダメ!」
金網を上り始めた陽希の左足を紬が引っ張り、引きずり落とす。それから紬の悲痛な叫びが続き、最後に大きな声を上げた。
「生きることをあきらめるな!」