桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
正悟は美桜に指示を出し、紬を抱き上げると、処置室へと向かって行った。それを目で追いながら、美桜は首から提げていたPHSを使って同僚のナースに紬の状態を説明する。PHSの向こう側から慌ただしく動き出すナース達、これで大丈夫と美桜は陽希の方へ振り返った。すると、そこには何が起きたのかわからない様子の陽希が、蒼い顔をして立っていた。
体が小刻みに震えている。
「ひなちゃん大丈夫?」
そっと陽希の肩に手を乗せると、小刻みに震えていた体がピクリと跳ねた。
「あっ……わたし……」
「ひなちゃん、少し紬ちゃんの話をしようか……」
美桜は近くにあったベンチに陽希を誘導し、座らせると自分もその隣に腰を下ろした。
「紬ちゃんの病気について話すことは個人情報だからいけないことなんだけど、紬ちゃんと、紬ちゃんのお母さんが、ひなちゃんになら紬ちゃんの病気のこと話しても良いって言われてたの……」
美桜は陽希の背中を優しく摩ってやりながら、紬の状態や病気のこと、ドナーを待っていることなどを話して聞かせた。美桜が紬の病状を話し終わると、それまで微動だせずに聞いていた陽希が、ゆっくりと顔を伏せて泣き出した。