桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
「紬は元気だから……わかってなかった……何で心臓外科なんだろうって、思った時もあったけど……。私……もうすぐ退院だから、紬も……もうすぐ退院するのかなって……っ……思って……た」
「うん……そうだよね。紬ちゃん元気に見えるもんね。でもね、紬ちゃんの心臓はやっと動いている状態なんだ……。今日みたいな発作が続けば、命の危険がある。ひなちゃんにはそれを知っていてもらいたいの」
「……っ」
陽希の声にならない声が漏れ聞こえてきた。
「私……紬に酷いことを言っちゃった。……っつ……ひくっ……死にたいって……死なせてって……紬は生きたがっているのに……うっ……ふぇっ……私……どうしたら……」
嗚咽しながら一生懸命話を続ける陽希の様子に、美桜は微笑んだ。
「酷いことを言ったと思うなら、謝れば良いんじゃない?」
美桜の言葉に、伏せていた顔を陽希が上げた。瞳から流れ出る涙を手の甲でぬぐい、美桜を見つめなが陽希がしゃくり上げる。
「ヒックッ……ゆるして……っ……くれないっ……かも……んっ……」
「許してくれなかったら、何度も謝れば良いじゃない。めげずにさ……。紬ちゃんも、めげずに
何度も陽希ちゃんに話しかけてたじゃない。今度はひなちゃんの番じゃないかな?」
「…………」
陽希は握り絞めていた両手に、もう一度力を込めた。
「私……紬に謝らなくちゃ!」
勢いよく立ち上がった陽希と共に美桜は紬が運ばれていった処置室へと向かうと、ストレッチャーに乗せられた紬が丁度処置を終え、母親に付き添われながら出てくるところだった。
良かった。落ち着いたみたい。
眠っている紬の状態を確認した美桜は、ホッと胸をなで下ろした。
「ひなちゃん、紬ちゃんは状態が安定して眠っているみたいだから、謝るのはまた明日にしようか?」
「うん……」
力なく頷いた陽希を外科病棟まで送り届けると、美桜は残りの仕事をするべく心臓外科病棟へ戻った。