桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
ゴクリと陽希は唾を飲み込んでからドアノブに手を掛けるが、体が石のように固まってしまい動かない。金属の取っ手に触れているせいなのか、指先から冷たくなっていく。そのまま固まっていると、勝手に扉が開いた。
「あら、ひなちゃん、いらっしゃい。中へどうぞ。飲み物買ってくるからゆっくりしていってね」
そう言って、中に入れてくれたのは紬の母親だった。陽希は紬の母親に促され、リクライニング式のベッドの背を上げて座っている紬の元へ近づき、顔を伏せたまま立ち止まる。すると心臓の音がやけに大きく、耳元から聞こえてきた。
何か言わないと……。
謝らなくちゃ。
そう思っているのに声が出ない。
喉がやけにヒリつく。
いつもはどうやって声を出してた?
そんな事もわからなくなるほど、陽希は緊張していた。沢山自分の部屋で謝る練習をしてきたのに、頭が真っ白になってしまい、言葉が出てこない。
そんな陽希に紬が声を掛けてきた。