桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。


 何も考えていないようで、紬は誰よりも相手の気持ちを考えて、行動することが出来る。なんて出来た子なんだろう。そう思うと、自分の子供的なバカさ加減に嫌気がさす。

 紬は何も悪くない。

「紬……悪いのは私だよ。紬の言うとおり、私は生きることを諦めていた。一日一日、生きるのが辛くて……死ぬことしか考えられなくなっていた。そしてあの日、手首切て……やっと楽になれると思った。でも、目が覚めたら病院で……死ぬことが出来なかった事に落胆した」

 自分の思いを伝えながら喋っていると、目頭が熱くなっていく。

「あの日、母親に愛されている紬を見て、羨ましかった。自分がこの世界で一番不幸だって、悲劇のヒロインぶって……。父に捨てられて、母に捨てられて、誰でも良いから私に手を差し伸べて、優しくして……って。自分でなんとかすることも考えずに、そんな事ばかり考えていた。紬はこんな私に寄り添って、人間としての感情を取り戻してくれたのに……。紬と出会って……また笑うことが出来たのに、また死のうとした」

 私の話を聞きながら、紬が大きな瞳から涙をこぼし続けていた。私は紬が何も悪くないと言うことを伝えたかった。

「紬が羨ましかっただけだから……私が子供なだけなの。紬はお母さんに愛されていて良いなって……。思っちゃっただけ……」




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