桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。


 「美桜、良かった。良かったね」と泣く母と、その肩を優しく抱く父の姿が今でも忘れられない。

 すぐに移植コーディネーターとの話し合いが設けられ、それに従って手術日などが決まっていった。移植手術日は美桜の誕生日4月3日に決まった。

 温かい日差しと、桜吹雪がきれいに舞うその日に手術は決行された。心配そうな父と母が、手術室の前で手を握ってくれた。

「大丈夫よ、絶対大丈夫だから、美桜頑張ってね。待ってるからね」

「頑張れ、美桜」

 二人に見守られ、美桜はストレッチャーで手術室へと入って行った。

 手術室の中はピリリとした緊張感に包まれていた。大人達の雰囲気がいつもと違う。仲良くしていた看護師や先生がいつもとは違う、見たことのない真剣な顔をしていた。それでも私を気遣ってか、マスク越しに笑顔を見せてくれた。

「美桜ちやん、大丈夫だよ。俺達に任せて、目が覚めたときには元気な心臓が美桜ちゃんの中で動いているから」

 先生の力強い声に美桜は頷いた。
 
 心臓移植の手術は全身麻酔で行われる。手術時間は長時間に及ぶことが多く、10時間以上かかることもある。美桜の移植手術も、10時間を超える大手術だった。心臓移植をするに辺り、胸に手術跡が残る、それは喉仏の少し下から胸の真ん中を通り、みぞおちまでの大きな傷……。それは元気な心臓を手に入れるための代償だった。






< 72 / 137 >

この作品をシェア

pagetop