桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
「あの時、坂口さんはさくらの……妹の話を聞いていたんだな」
立ち聞きしていたことを怒られるのかと、美桜は身体を強ばらせたが、正悟は優しい声で謝ってきた。
「ずっと隠していてすまなかった。本来レシピエントとドナー家族との直接の交流は許されていない。俺も偶然さくらの心臓が坂口さんに移植されたことを知ったが、ドイツへ行くことも決めていたし、もう会うことも無いと思っていたんだ」
黙って聞いている美桜に向き合いながら、正悟が美桜の瞳から流れ落ちる涙を指で払い話を続けた。
「日本に帰って来ることが決まって、この病院に来てみると運命の悪戯か、君が目の前に現れた。俺にはすぐに分かったよ。君の中で動くさくらの存在に……それからは、君から目が離せなくなった。いつも目で追うようになって……妹を守らなければと思っていた」
妹を守る……。
やっぱりそうなんだ。
私のポジションは妹であって、それ以上にはなれない。
下唇をグッと噛みしめ、涙を止めようと試みるが、一度溢れ出した涙は止まる様子を見せない。美桜は涙をハラハラと流しながら、唇を噛みしめていると、正悟が親指の腹で美桜の唇をなぞってきた。
どうしてこの人は、こういうことをするんだろう。そう思いながら、自分の唇をなぞるように触れる正悟を見つめる。
温かい先生の指の体温がこちらに移ってくるような気がした。
本当は、こういうことをしないでほしい。