桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
顔を伏せた美桜の顎を正悟は軽く持ち上げた。
「だが、それは最初の頃だけだった。初めは妹の心臓の持ち主を守り、見守ろうと思っていた。しかし、毎日楽しそうに仕事する姿や、子供達の話を真剣に聞き一緒に涙する姿に目が離せなくなった。それからは妹という感情は無くなっていった」
それって……。
それって、どういうこと?
正悟の右手が美桜の頭に乗せられると、優しく撫で始めた。
「俺はいつの間にか、君のことを一人の女性として、好きになっていた」
もぞもぞと正悟の腕の中で動いてみると、それに気づいたいた正悟が腕の力を緩めてくれた。
「ああ、すまない。こんなおじさんにいきなり襲われて、嫌だったよな……告白なんかされて……迷惑だよな」
そう言って離れようとする正悟の腕を、美桜は力いっぱい掴んだ。それから正悟の腕を掴んだまま顔を伏せると、今まで生きていた中で、一番大きな声で叫んだ。
「い……嫌じゃ無いです!私は……私は……迷惑なんかじゃ無い!私は樋熊先生が……好きなんです!!」
美桜の声は、春の風に乗って空高く消えていく。
その声に驚き固まる正悟だったが、パチパチ瞬きをした後、おかしそうに笑った。そんな風に笑う正悟を見るのは初めてで、泣いていたことも忘れ、美桜も笑っていた。
「そうか、嫌では無かったか。良かった」
そう言って正悟が前髪を掻き上げると、思ってもみないほど、端正な顔立ちの男性が立っていた。
えっ……だれ?
「ん?どうした」
その声は樋熊先生の声なのだが、自分の目が信じられなかった。
すごく格好いい人が目の前にいる。
「あの……樋熊先生?」
「なんで疑問形?それから俺の名前知ってるか?」
「えっと……正悟?」
「そう、俺の名前は正悟だよ。美桜」
美桜の名前を正悟が優しく囁けば、足の力が抜け腰砕けになってしまう。
「樋熊先生お願いです。無駄にイケメンボイスなんですから、その声で囁かないで」
床に座り込もうとしたした美桜の体を抱きかかえるようにして、正悟が救い出した。
「正悟だよ。呼んで……俺の美桜……」
だから耳元で囁かないで。
「……正悟さん」
「ああ、良い子だ」