桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
両手を握り絞め足下を見つめたとき、廊下に落ちている看護師の名札に気づいた。それを拾い上げ坂口美桜と書かれた名札を裏返すと、ドナーカードが入っていた。そこには3の『私は臓器を提供しません』にマルが付けられていた。看護師なら自分から進んで臓器提供をするものかと思っていた。医療従事者だから医療のために貢献すべき、などというのは偏見というものなんだろう。そう思いなから文字を追っていた目を特記欄に書かれた文字で止めた。
そこに記されていたのは『心臓移植後のレシピエントのため』
レシピエントと言う、聞き慣れない言葉に首を捻りつつ、次のカッコの中に書かれた数字を見て俺の心臓がドクンっと音を立てた。
(8年前)
8年前それはさくらが俺の前からいなくなった時と同じ年だ。人づてにさくらの心臓が移植されたことは聞いていた。何処かでさくらの心臓を提供された人が生きている。それはいつの間にか俺の心の支えになったいた。さくらの心臓だけは、何処かで元気に動いていると……。それがもしかしたら美桜さんの中に……あるのかもしれない。そう思っただけで、胸が熱くなった。
ドクンッドクンッと大きく鳴る心臓。
啓汰はスマホを使い、震える指でレシピエントを検索した。
『レシピエントとは?』そこに書かれていたのは……レシピエントとは、臓器移植手術や骨髄移植手術で臓器の移植を受ける患者。ドナーから臓器を提供された人。
ドナーから臓器を……そうなんだ。
俺は確信した。
さくらは、美桜さんの中にいる。
俺は高鳴る胸を押さえた。
さくら……君に会いに行く。