桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
*
夕方、美桜さんの仕事が終わるのを待って、声をかけた。
「さくら……」
俺の声に気づいた美桜さんが振り返った。
「啓汰」
にっこりと笑いながら恥ずかしそうに右耳に触れている。それはさくらの癖の一つだった。照れているときや、恥ずかしいときに右耳に触れる。やはり、美桜さんの中にさくらはいるんだ。その証拠に俺はさくらと呼んだのにそれを否定することもない。
ああ、さくら……君は美桜さんの中で生きている。
俺は思わず美桜さんに駆け寄り、その体を抱きしめた。
「さくら、会いたかった」
「啓汰さん、あの……」
俺の腕の中で、美桜さんが狼狽えながら声をかけてきた。俺は美桜さんから離れると廊下で拾った名札を手渡した。
「すみません。勝手に裏を見ちゃいました。美桜さんの中にいるのはさくらなんですよね?」
俺の問いに、動揺を見せた美桜さんだったが、意を決したように俺の目を真っ直ぐに見ると頷いた。
さくら……やっぱり君はここにいたんだね。