公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する
第10話 お弁当
出勤するなり、騎士団の執務室で仕事をしているが、今日は早く終わらせなければ、と思っていた。
「団長、今日の弁当はいつもの焼き肉弁当大盛でいいですか?」
いつものようにヒューバートが弁当の注文を聞きにきた。
「今日は要らん」
「は? お出かけですか?」
「今日は弁当が届くから要らん」
「オーレンさんが来るんですか? 珍しい」
「オーレンは来ない」
ヒューバートは変な顔をしていた。
「用がないなら出ていけ。俺は忙しい!」
早く午前の仕事を終わらせルーナを迎えに行かねば、と思っていた。
「……婚約者候補の方はどうでした?」
「何故だ?」
「いや、朝から一度も愚痴らないので……」
「彼女は邸にいることにした」
ヒューバートの返事はどうでもよく、最後のサインをカンと勢いよく終わらせ、急いで立ち上がった。
「ヒューバート! 俺は忙しい! 執務室を空けろ!」
「はぁ……」
ヒューバートをほっとき、入り口に急いで迎えに行ったがルーナはまだだった。
今か今かと腕を組み仁王立ちで待っていると、門番がおそるおそる聞いてきた。
「……あの……団長、何かご用ですか?」
「用があるから立っている」
「……はい」
何を言っているんだと思った。
その時、邸の馬車がやってきた。
馬車が停まるなり扉を開けると、ルーナがバスケットを持って座っていた。
「さぁ、降りなさい」
「はい、お待たせしましたか? すみません」
「今来たところだ」
我ながら、嘘をついた。
本当は少し待っていたのだが。
「重いだろう。貸しなさい」
「カイル様は沢山食べると伺いましたので頑張って沢山作りました」
「ルーナが作ったのか?」
「料理長さんとハンナさんと一緒にしました」
「それは、楽しみだ」
ルーナのバスケットを持ち彼女を執務室に連れて歩いた。
その様子に、騎士団の皆が手を止めて呆然と見ている。
「あの……カイル様? 皆様見てますけど私が執務室に入っていいのでしょうか?」
「俺の執務室だ。気にすることはない」
正直、ヒューバートや騎士達が騒いでいるのは聞こえた。
ヒューバート達を一睨みして黙らせたが、ヒューバートに睨むのは止めて下さいよ!と言われているようだった。
席につくと、ルーナがハンバーガーにサラダにと出してくれた。
ルーナはサンドウィッチだった。
「今温かいお茶を出すからな」
執務室の扉を開けると、何故か扉の側にヒューバートが立っている。
だがちょうどいい。
そのヒューバートにミルクティーを頼んだ。
何故かヒューバートはミルクティー!? と驚いていた。
「カイル様、美味しいですか?」
「旨いから食べている」
本当に美味しいと思った。
ルーナは頬を赤くして、微笑んだように見えた。
「団長、ご希望のお茶でーす」
ヒューバートはご機嫌でやってきた。
「お嬢さん、ミルクティーですよ」
「ありがとうございます」
ヒューバートはまじまじとルーナを見ていた。
ルーナは恥ずかしそうにヒューバートから目を反らした。
「用がすんだら出ていけ」
ヒューバートが邪魔だと心底思った。
だが、こいつはこういうやつだった。
「団長、婚約したなら言って下さいよ!」
ヒューバートはすかさずルーナに自己紹介をした。
「俺はカイル団長の副団長のヒューバートです。よろしくお願いします。婚約者殿!」
「いえ、私は婚約者では……」
「は?」
「私はカイル様の居候で……」
「居候ではない!」
「「……」」
何故ルーナとヒューバートは沈黙なんだ!
「団長、お嬢さんがビビりますよ」
しまった! 怖がらせるか?
「……あの……カイル様はお優しい方です」
ルーナは怖がらず、ゆっくりヒューバートに言った。
「団長は、優しいですか?」
「はい、とてもお優しいです」
少し照れたように頬を染め、ルーナはそう言った。
その仕草は、なんとも可愛いらしい。
ヒューバートは、お邪魔になるといけないから、とやっと出ていった。
どうやらルーナの言葉に満足気だったようだ。
一緒に昼食をとった後、ルーナを入り口まで送った。
「気をつけて帰りなさい。夕食には帰るから、待っててくれ」
「はい、お仕事頑張って下さい」
御者に、頼むぞ、と言い馬車は走り出す。
ルーナは窓からちょこっと顔を出して見ていた。
俺は気がつけば、ルーナに軽く手を振っている。
ルーナも手を出してくれたのがわかり、初めて心が弾む自分に気が付いた。
ルーナに弁当の礼に何か買って帰ろうと思い、急いで仕事を片付けていた。
「団長!? 帰るんですか!?」
「家に帰って何が悪い」
ヒューバートが早めに帰ることに驚いていた。
いつもは、なかなか帰らず、騎士団に泊まることもあるからだろう。
だが、こいつならルーナの喜びそうな店を知っているか?
「ヒューバート、お前も一緒に来い」
そう思い、ヒューバートも仕事を上がらせとりあえず街に連れて行った。
舗装された石畳の貴族街を歩きながら、ルーナの話をした。
「……あの娘にプレゼントねぇ」
「何故か居候と思い、気を使うんだ」
「……団長、婚約しましたか?」
「候補で来た筈だが」
「団長がハッキリ婚約と言わないから不安なんじゃないですか?」
「言う必要があるのか?」
「あるでしょう。大体いくつ何ですか?あの娘」
「15歳と言ったな」
「……まだ結婚できないじゃないですか」
「後2ヶ月で16歳らしいから問題ない」
「ならまだ大丈夫ですね。16歳になれば結婚できますから、良かったですねー。犯罪にならなくて」
「犯罪などせん!」
「まぁ、口約束だけでも婚約の話をして、16歳になれば正式に婚約して結婚すれば、彼女は安心すると思いますよ」
そんな話をしながら歩いていたのに、すでに俺の足は一つの店の前で止まっていた。
ヒューバートの話を適当に聞き流しながら、ショーウィンドウの一つのぬいぐるみを見ている。
ルーナなら喜ぶのではと思った。
「買って来る」
ヒューバートはニヤニヤしてたがこの際どうでもよくなっていた。