公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する
第19話 親戚でした
夕方、ハンナさんに呼ばれ居間に行くと仕立て屋さんが来ていた。
ブティックのように服も並べられ、びっくりする。
「お嬢様、カイル様がお嬢様の為にお呼びになりました」
ハンナさんが仕立て屋さんを私に紹介した。
「初めまして、仕立て屋のアイビーです」
「ルーナです。はじめまして」
アイビーさんは凄く綺麗な方で、大人っぽくオシャレだった。
「アイビーさん、カイル様が帰る前に先にサイズを測ってしまいましょう」
ハンナさんが、アイビーさんに言うとメジャーを出して、私の体を測り出した。
「可愛いらしいお嬢様ですね。まさかファリアス公爵様からお呼びがかかるなんてびっくりしましたわ」
「カイル様はいつもお呼びしないのですか?」
アイビーさんは私の腰をクルッとメジャーで測りながら言った。
「お嬢様、カイル様が女性の為に仕立て屋を呼んだのはお嬢様が初めてですよ」
ハンナさんは笑顔でそう言いながら、身体を測られている私を見ている。
「ファリアス公爵様は見目麗しい方と噂ですけど、女性の噂はありませんでしたから」
女性の噂がない。
私だけ?
そう思うと、照れる頬を抑え赤くなるのを隠していた。
「さぁ、ドレスを沢山注文しましょうね」
「ハンナさん、いいのでしょうか?」
「いいに決まってますよ」
サイズを測り終わり、ドレスのカタログを見せてくれ、開くと。素敵なデザインのものばかりで、びっくりする。
これが、今の流行りなんだろう。
一枚一枚見せていただいていると、「カイル様がお帰りになられました」とオーレンさんが呼んでくれた。
いつも出迎えるから、オーレンさんが気を遣ってくれたのだ。
でも、お迎えできることが嬉しいのだ。
「すみません、カイル様をお迎えに行ってきます」
小走りでオーレンさんのあとについて行った。
それを、ハンナさんたちは微笑ましく見守っている。
「おかえりなさいませ、カイル様」
「今、帰った。仕立て屋は来ているか?」
「はい、サイズを測っていただきました」
カイル様と一緒に居間に戻ると、アイビーさんはカイル様に挨拶をした。
「ルーナ、好きなだけドレスを選びなさい。次の休みの観劇に行く服もいるだろう。好きなだけ買いなさい」
「そんなに沢山は選べません」
「気にいったのはないのか?」
「……少しだけありました」
「では、それを買おう」
カイル様は、悩んだドレスを迷わずアイビーさんに伝え、オーダーメイドで頼んだ。
アイビーさんは、「お買い上げありがとうございます」とニコニコで満足そうに帰っていった。
夕食のあと、カイル様は少し話をしようと言って夜にまた会えることになった。
誘って下さるのが嬉しくて、急いで支度をして、バルコニーへ向かった。
そこには、すでに優しい顔のカイル様が待っていらした。
「ルーナ、今日は部屋で話そうか」
「はい」
カイル様の部屋に連れていかれると、暖炉に火はついており暖かかった。
「ルーナ。こちらに……」
今日のお昼のように、カイル様の隣に誘われて座ると、無表情ながらも真剣な顔で話し出した。
「今日、ヒューバートに調べてもらったのだが、ディルスはルーナの親戚筋にあたるらしい。ディルスの父親がドワイス家の親戚になるとのことだ」
「義兄上が? 知りませんでした」
「正式にドワイス伯爵の養子になっているし、伯爵家を継ぐのはディルスで間違いない」
義兄上と私が親戚とは知らなかった。
「伯爵家から出そうとも少し思ったが、継ぐ資格はあるし、ルーナが恨んではいないと言っただろう。だから、考え直した」
「まさか……義兄上達を追い出そうとしたのですか?」
「……それくらい俺は腹が立った」
「私の為に怒って下さったのですね……」
「だから、明日は予定通り支度金をだし、正式に婚約を申し入れる」
「はい。……大丈夫でしょうか?」
「問題ない」
「わかりました、全てカイル様にお任せします。私の為にありがとうございます」
カイル様の方に顔を向け、お礼をいうと、男らしい力強い手で私の手を包むように握ってくれる。
「ルーナ、二度とこの邸から出ていこうと考えないでくれ。俺の側にいてくれないか?」
「……いいのでしょうか?」
「俺が側にいて欲しいのではダメか? ここにいて欲しいのだ」
「……はい……ずっといます」
カイル様の手が大きくて、私の手はすっぽりはまってしまいそうだった。
「昼間、邸では楽しくやっているか?」
「はい、ハンナさんとお料理するのも楽しいですし、オーレンさんもよくお茶を持ってきて下さいます」
「そうか……」
少し腰を曲げて、優しい顔でこちらを見ながら話すのは、きっと私の目線に合わそうしてくれているとわかる。
「あの、カイル様の花瓶の水換えを毎日してもいいですか?」
「構わないが無理にはいいのだぞ」
「ぜひさせて下さい」
「では頼もう。俺の部屋はルーナなら自由に出入りして構わないからな」
「……特別ですね」
「特別だな……」
カイル様の部屋のソファーで気がつけば二人で寄り添っていた。
カイル様は一度も嫌がらず側にいてくれていることが嬉しくて、どこか安心してしまっていた。