公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する
第21話 デート
ドワイス家のことが終わり、酒好きのヒューバートに礼として好きなだけワインをやった。
あれから数日。
今日はルーナと、バーナード様から頂いた観劇を見に行くことになっている。
部屋の前で待っていると、ルーナが目を輝かせて部屋から出てきた。
「お待たせしました」
「支度はできたか?」
「はい。カイル様、私少し銀髪に戻ってきた気がします。シャンプーのおかげかもしれません。カイル様たちのおかげで美味しいご飯も食べてますし」
「良かったな。凄く綺麗だ」
「はい」
髪など気にもしてなかったがルーナはずっと気にしていたのだろう。
ハンナも、「女性は気になるものです」と言っていたし、笑顔になって本当に良かったと思う。
観劇のホールにつくと、ルーナはキョロキョロしていた。
「どうした?」
「観劇は初めてですけど、皆様あちらに行かれています。私達は行かないのですか?」
「向こうは一般席だ。俺達はスイートVIP席になるから、こちらだ」
バーナード様は、一番良い席を用意してくれていたが、ルーナは観劇が初めてだから、よくわからないのだろう。
なんだかルーナがはぐれてしまいそうで、ルーナの肩を抱き寄せて一緒に歩いた。
恥ずかしながらもルーナは寄り添ってくれて、俺の服をちょこんと掴み可愛いかった。
スイートVIP席に入ると、ワインレッド色のソファーにルーナと座る。
俺たちが座ったのを見計らい、ボーイたちがシャンパンとアフタヌーンティーを持ってきた。
「ファリアス公爵様、バーナード公爵様より差し入れのシャンパンです。こちらのアフタヌーンティーはバーナード公爵夫人よりお嬢様にと差し入れされました」
「私にですか?」
ボーイ達はシャンパンや紅茶をついだりした後は、席の外で控えていた。
「バーナード様は愛妻家で、世話好きな方と有名だ。今回のことで、心を痛めておいたのだろう。ヒューバートの話では、バーナード様が夫婦でドワイス家へいき話をされた、と言っていた。ディルスたちが観念したように大人しかったのも、恐らくバーナード様のおかげだ」
ルーナは、大きな目を丸くして聞いていた。
「そうだったんですか……バーナード様にも助けられていたのですね」
「……バーナード様が俺にルーナを紹介したから、今度二人で挨拶に行くか?」
「ぜひ行きたいです」
「なら今度バーナード様に手紙を出すか……」
次の休みに、バーナード様に挨拶に行くことにして、16歳になり正式に婚約をしたら陛下にも挨拶に行かねばならん。
オーレンがデヒュタントも結婚前にと話していたし、やらねばならんことが沢山ある。
ルーナを見ると、目を輝かせて観劇に夢中だった。
初めてだと言っていたから、かなり楽しいらしい。
観劇に夢中になっているルーナの肩を抱き寄せると、ルーナは一度俺の顔を見た後、俺の胸にゆっくりもたれかかった。
可愛いと思う。
いや、間違いなく可愛い。
一度も、拒否しないが嫌ではないと思いたい。
観劇が終わり、ルーナはパンフレットを楽しそうに見ている。
「凄く楽しかったです」
「気にいったか?」
「はい」
「ではまた来るか?」
「ぜひ連れてきて下さい」
ルーナに裾の長いポンチョをかけてやると、じっとこちらを見た。
「どうした?」
「私もカイル様にコートをかけてもいいですか?」
「構わないが……」
小柄なルーナに、背が届くのか、と思うと、少しだけかがみ、ルーナが持っているコートに袖を入れ、コートを着た。
「カイル様は背が凄く高いですね」
「まぁ、高い方だろうな」
ルーナはこんな些細な事が嬉しいのか笑顔になる。
「あの……カイル様……」
「なんだ?」
「その、結婚しますよね?」
「当然だ」
「結婚したらですね……、だ、旦那様とお呼びした方がいいでしょうか?」
何故、頬を赤らめて言うんだ!
こっちまで赤くなりそうだ。
しかし、旦那様か……。
ルーナが言うと可愛い。
だが、何故だろう。
夫ではなく保護者感がでるのは……。
いや、今は特に保護者でもあるのだが。
「……」
「あの、カイル様?」
「……旦那様でも構わないが、名前で呼びなさい。夫婦とは対等なものでいたい」
「はい」
ルーナはまた、笑顔で返事をした。
旦那様と呼びたかったのか、どっちだ?
わからん。
観劇ホールを後にし、街中に行くとあちこちで、冬祭りが近い為かツリーを飾り始めているところがあった。
冬祭りの日は騎士団も警備に出る。
配置や人数を考える時期かと、つい仕事のことを考えてしまう。
「カイル様、冬祭りは行ったことありますか?」
「幼い頃は行ったことあるが、最近はないな。祭りの日は警備になる」
「お仕事ですか」
「祭りに行くなら、連れて行くぞ」
「本当ですか!? お仕事はどうされるのですか?」
「警備の仕事が終わってからだが、ずっとはしないからな。交代までの時間は無理だが、その後で行くか?」
「はい。楽しみですね」
ルーナが笑顔で手を合わせて喜ぶと、吐いた息が少し白かった。
「寒くないか?」
「少し寒いぐらいです」
「手をかしなさい」
ルーナの手を握ると、ひんやりとする。
「手袋を買うか。手が冷たいぞ」
「いいのですか?」
「何でも買ってやると言っただろう」
そのまま離せず、手を繋いだまま歩くとルーナは、ふふ、と喜んでいる。
「どうした?」
「カイル様と手を繋いで歩きたいと思ってました」
そんなことを考えていたのかと思うと、もっと早く繋いでやれば良かった。
「いくらでも繋いでやる。はぐれないようにしてくれ」
「はい」
ドワイス家で話をつけてから、ルーナの笑顔が増えた気がする。
少しずつ距離も近くなったのだろうか。
毎晩、バルコニーで会うのも嫌だと思ったこともない。
それどころか、ルーナを待っている自分がいる。
愛想のない俺に嫌がる顔もしない。
ルーナは不思議な娘だった。