公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する
第6話 二人の朝食
「ルーナ、大丈夫か? 起きるんだ」
「……んん」
声が聞こえる。
「ルーナ」
呼び掛ける声に目を覚ますとカイル様がベッドに起きていた。
しまった。あのまま寝ちゃったんだ!
慌てて顔を上げた。
ここにいた理由をちゃんと説明しないと……そう思うのに、焦っているせいか上手く言葉が出てこなかった。
「すみません、私……」
「大丈夫だ。ゆっくり話なさい」
カイル様は優しかった。
大きな手で頭を撫でられて、うなづいた。
「……夕べ、オーレンさんとカイル様が話している時、くしゃみをされていたのでお風邪を引いたと思って、ハンナさんとジンジャーティーを持ってきたのですが……」
「来たら俺はもう寝ていたんだね?」
「はい、遅くてすみません」
「一晩中タオルを?」
「少し顔が赤かったのでお熱だといけないと思いまして……」
「ルーナは大丈夫なのか?」
「はい、ありがとうございます」
「タオルをありがとう。だが何故あんな夜に飛び出して行ったんだ? 言い方がキツかったか?」
「……カイル様に帰るように言われて、でも家には帰れなくて…」
「邸から帰れと言ったんじゃない。部屋に帰るようにと言ったつもりだったんだ」
邸から追い出されてないの?
そう思うとまた泣いてしまった。
「昨日は俺が悪かった。一人で怖い思いをさせた」
「すみません。どうしていいかわからないんです……」
カイル様が困っているのはわかるけど、涙が止まらなかった。
「……一緒に朝食を食べよう。ハンナを呼ぶから着替えておいで。部屋まで送ろう」
カイル様は昨日のことを責めず、私に困っているのに優しい声で話してくれて、部屋まで連れて行ってくれた。
大きなネグリジェは裾を踏みそうで裾を持ち歩いていると、少しカイル様が笑ったように見えた。それに気恥ずかしくなる。
途中、オーレンさんに会い、ハンナさんを私の部屋に呼ぶように言っていた。
ハンナさんは、すぐに小走りでやって来た。
「お嬢様、心配しました。お部屋にいないから探そうと思っていたのですよ」
「すみません」
どうやら階下ではなくて、階上で私を探していたらしい。
「ハンナ、心配するな。俺の部屋にいた」
「カイル様の?」
「着替えをさせてくれ。一緒に朝食を食べる」
ハンナさんは何故か驚いた表情だった。
ハンナさんと部屋に戻ると、昨日の微笑よりもずっと笑顔になっている。
「お嬢様すぐに着替えましょうね。カイル様が婚約者候補の方と食べるなんて初めてです!」
「今までは別々だったのですか?」
「……難しい方々ばかりでしたから」
今までの婚約者の方々のことはどうやら言いにくい感じで肩をすくめていた。
そのハンナさんは急いで着替えを出すと、手が止まった。
古びたケースの中の服に驚いたのだろう。
「……二年前に買ってもらった服が最後なんです。昨日のはもう使えませんし……」
ハンナさんはしんみりとした表情になった。
「……服がキツくありませんか?」
「……少しキツいです……」
「少しだけ手直しをしますね。ウエストのリボンも緩めてきましょう」
ハンナさんは足早に裁縫道具をとってきて、少しずつ服を直した。
おかげで少しだけいつもより楽に着ている気がする。
「ハンナさんありがとうございます」
「いいえ。さぁ、カイル様がお待ちですよ」
ハンナさんに案内されてカイル様のところに行くと、テラスに朝食が準備され、カイル様は新聞を読んでいた。
「遅かったな、どうしたんだ?」
何と言おうか戸惑うと、ハンナさんが上手くフォローしてくれる。
「女性の支度は時間がかかるものです。それよりカイル様ちょっとよろしいですか?」
カイル様は何だ何だと、ハンナさんに手招きされて、二人で廊下に行った。
私は、オーレンさんが「どうぞ、お嬢様」と引いてくれた椅子に座った。
オーレンさんがお茶を入れようとしてくれたが、どうしてもカイル様を待ちたくて断ってしまう。
少しするとカイル様が戻り席についた。
お茶一つ口にせずに待っていた私を不思議に思ったのか、カイル様は私の朝食を不思議そうに見ている。
「食べないのか?」
カイル様が聞くと、オーレンさんが説明してくれた。
「お嬢様はカイル様をお待ちしていたのですよ」
「待っててくれたのか。ルーナ、遠慮せずに食べなさい」
カイル様は、ゆっくり優しく言ってくれた。
「……いただきます」
カイル様が、お茶を口にしたのを見てそう言った。
ケジャリーにスクランブルエッグ、サラダにベーコンに沢山あった。
お皿に少しずつのせてくれ、自分では結構食べたつもりが、カイル様は私の倍も食べていた。
しかも上品だった。
紅茶は甘いミルクティーで美味しかった。
「ミルクティーは好きか?」
「は、はい」
「今日は仕事を休むから、一晩中看病してくれた礼に何か服でも買わないか?」
「え……」
「気にすることはないぞ。夕べの礼にだ」
少しぶっきらぼうな言い方だが、もしかして服がないことを知っているのかと思った。
「オーレン、馬車を準備しといてくれ」
「かしこまりました」
私の返事を聞かず、買い物は決定していた。