公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する
第8話 可愛い部屋
邸に帰った頃には、もう昼を少し過ぎていた。
上着を脱ぎながら、それをオーレンが受け取りながら、聞いて来た。
「カイル様、お昼はどうされますか?」
「少し時間を遅くして軽いものを出してやれ」
「カイル様もそれでいいのですか?」
「あぁ、ルーナの好きにさせてやれ」
オーレンは驚いていたが、俺も自分自身で驚いていた。
この邸自体、食事と寝に帰るだけで使用人もあまりいない。
俺自体、騎士団に泊まることも多いためもあるが、使用人の数にルーナは気にもしてない。
まあ、ルーナは自分のことで精一杯なのだろうが……ルーナが気になり初めている気がしていた。
何となく窓の外を見ると、ハンナとルーナが庭の薔薇を見に行っているのが見えた。
ハンナと庭師に笑顔を向けて、薔薇を見ている。
まだ無邪気な子供のようにも見えたが、そうではないようにも見えた。
自分がわからん。
「ハンナには笑顔なんだな……」
思わず呟く俺は、彼女をずっと見ていた。
最初の晩餐も、二人で出かけている時も、ルーナはうつむきがちで、時折目が合うと反らされていた。
「……オーレン」
「はい、なんでしょうか?」
「ルーナに別の広い部屋を準備してやれ」
「……可愛いらしい部屋にしましょうか?」
「そうしてくれ。あの薔薇園が見える部屋にしてやれ」
きっと、俺が見ていることは気付かないから笑顔なのだろう。
それとも昼食には俺にも笑顔を見せてくれるのだろうか。
自分でも気がつかないうちにルーナとの昼食が待ち遠しくなっていた。
昼食の時、ルーナは花瓶に薔薇をいけて持ってきた。
「カイル様、庭師のマシューさんが薔薇を分けて下さりました。お庭の薔薇でお礼なんて失礼ですが、もし良かったらどうぞ……」
ルーナは顔を赤くして、下を向いたまま薔薇を両手を一杯に伸ばし差し出した。
「ありがとう……」
少し驚いたがルーナから受けとると、照れているのか、赤くなったまま笑顔になっていた。
薔薇園にいたのはこの為だったのかと思うと、俺は何だかホッとした気分だった。
新しく買ってやった服も着てくれて良かった。
「ルーナ、部屋を代えようと思う」
「部屋? カイル様はどこかに行かれるのですか?」
ルーナは何故か不安な顔になった。
何故俺が移動すると思うのだ。
「俺の部屋ではない。ルーナの部屋だ」
「私の部屋……?」
また不安そうな顔つきになった。
まさか、また飛び出して行く気かと脳裏をかすった。
「邸の中に違う部屋を準備したんだ」
ぶっきらぼうな俺に業を煮やしたのか、オーレンがフォローを始めた。
「カイル様がお嬢様に広い部屋を準備しました。カイル様のお近くの部屋ですよ」
「……カイル様のお近く?」
「はい、薔薇園が見える日当たりの良い部屋です」
あぁ、それで俺の近くの部屋なのか。
俺の部屋からは薔薇園がよく見えたからな。
「食べたら部屋に行こうか?」
「はい」
そう言うと、笑顔を見せてくれる。
オーレンに案内され、ルーナと部屋に行くと、何故か隣の部屋だった。
ドアを開けると、部屋はピンクの薔薇を飾り、ベッドには天蓋に薄いピンクのレースが垂れている。
可愛いらしい部屋になるように、オーレンとハンナが頑張ったのがわかった。
「カイル様、私がこの部屋を使っていいのですか?」
俺の腕にしがみつき、おずおずと聞くルーナを可愛いと思ってしまう。
だが、バレてはいけないと思い年上らしく対応しなければと思った。
「気にせず使いなさい。ちょうど隣は俺だ。何かあればいつでも来なさい」
「カイル様、ありがとうございます。居候の私にこんなによくしてくださるなんて……」
居候?
確かに居候だが何か違う。
オーレンを何気に見ると、軽く会釈し出ていってしまった。
フォローはどうしたんだ?
何故このタイミングで出ていくんだ!
そう思ってしまった。
「……カイル様? やはり居候の私はすぐに出ていった方がいいのでしょうか?」
ルーナは何故出ていくことばかり考えるんだ!
「……居候ではない」
「やはり出ていけと?」
「そうではない。この邸にいなさい」
わからん。
年の差があるからか!?
「カイル様」
「なんだ!」
思わず力一杯返事をしてしまった。
しまった。怖がらせるか!?
だがルーナは頬を染め笑顔だった。
「ありがとうございます」
笑顔のルーナを見て、この部屋が気にいってくれたと思い、オーレン達に感謝した。
自分の部屋に、ルーナがくれた花瓶をナイトテーブルに置くと見いってしまっている。
俺の為に準備してくれたことが嬉しくて花を飾るのも悪くないと思い始めていた。