この政略結婚に、甘い蜜を
「いいよ、華恋が無事に帰って来てくれるなら。あっ、でも今度は迎えに行ってもいいかな?不審者が出たってニュースでやってたから」

「なら、今度遅くなりそうな時にはお願いしてもいいですか?」

華恋がそう返すと、零は嬉しそうな顔をして華恋を不意に抱き締める。華恋の胸がギュッと音を立て、鼓動が早くなる。

「れ、零さん……」

「あんまりにも華恋が可愛いから、我慢できなくて」

零は華恋の頭を優しく撫で、首筋に鼻を近付ける。その時、「ん?」と零が呟いた。その声はどこか怒りを含んでいる。

「華恋、誰かと一緒にいた?」

「はい。学生時代の同級生に声をかけられて……」

零のどこか冷たい声に華恋は戸惑いを感じながら答える。零は華恋をゆっくりと離し、くるりと後ろを向く。

「何だか、嫌な香りだね」

ひどいことを言われたわけではない。だが、何故か華恋の心に傷をつけた。



それから数日後、華恋はいつも通りに仕事をし、零と一つ屋根の下での生活を送っていた。
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