この政略結婚に、甘い蜜を
「そ、そんなことを今さら言われても……!」

確かに、幼い頃は傑に対して恋心を抱いていたのは事実である。だが今、華恋は零という夫がおり、傑に対してもう心が動いたりはしていない。だが、それは傑には伝わっていないようだ。

「なぁ、ホテルの部屋予約してあんねん。政略結婚で旦那のことなんて何とも思ってないんやろ?今夜くらいええやん」

「ッ!やっ!」

キスをされそうになり、華恋は強く目を閉じる。零の悲しげな顔が脳裏に浮かび、華恋は泣き出しそうになってしまう。触れられたくない。心の中で思っているのは、それ一つだった。

刹那、「僕の大事な妻に何をするつもり?」と低い声がした。それと同時に傑が突き飛ばされる。華恋が横を見れば、無表情の零が立っていた。

「鍵宮零……!」

悔しげに傑が言うと、零は「苗字、間違ってるよ」と言いながら華恋を横抱きにする。零の腕の中に囚われ、先ほどまで感じていた恐怖が華恋の中から薄れていく。胸が高鳴り、頬が赤くなっていくのがわかった。
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