この政略結婚に、甘い蜜を
傑と邂逅した時よりも、強引に迫られた時よりも、心が一歩を踏み出すのを恐れている。臆病な性格では決してないはずだ。夫に渡すプレゼントを選ぶだけ、それだけだというのにこんなにも怖いと思っている。

「どうして、こんなにも怖いの?恋ってこんなに怖いものだったのかな?」

ザワザワと嫌な音を立てる胸元に手を当て、華恋は足を止める。道路を夕焼けが照らし、頬を風が撫でていく。そんな中、華恋の横に一台の高級車が止まった。

「華恋さん、久しぶりだね」

車の窓を開けてそう言ったのは、零の兄である龍羽だった。アメリカにいるはずの龍羽がここにいることに華恋は驚く。

「お義兄さん、どうしてこちらに?」

「出張で来たんだ。よかったら、家まで送るよ。日が暮れたら女性の一人歩きは危険だからね」

サングラスを外し、龍羽は柔らかい笑みを浮かべる。華恋は零が前に「浮気だからね」と言ったことが頭に蘇るも、プレゼントのことを相談しようと思い、甘えることにした。
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