この政略結婚に、甘い蜜を
(怖い……怖い……!零さんはこんな人だったの?)

華恋の目に涙が浮かび、頬を伝っていく。するとようやく唇が離れ、新鮮な酸素を吸い込んだ瞬間に華恋は咳き込んでしまった。だが零は、余裕そうに咳き込む華恋を見下ろしている。

華恋の咳が落ち着くと、零の顔がまた顔に近付いてくる。またキスをされると思い華恋が身構えると、唇ではなく舌が華恋の肌に触れた。

「ひっ!」

零の舌が華恋の頬を舐めている。そこは涙が先ほど伝った場所だ。柔らかく温かい舌の感触に華恋は身をよじるも、逃げることはできない。

「甘……」

零はそう呟いた後、また華恋と唇を重ねる。今度はただ唇が触れ合うだけだった。だが、華恋の中で恐怖はなくなったわけではない。むしろ、これから何をされてしまうのかと体は震えてしまう。

「ねえ、華恋」

零の表情は、結婚式場や車の中で見た冷たいものではなくなっていた。ニコリと微笑んで、いつもの顔に戻っている。それに華恋が少し驚きつつも安心した直後、零の手が華恋の着ているブラウスの中に侵入してきた。
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