この政略結婚に、甘い蜜を
龍羽に結婚式をサプライズでプレゼントしようと話していたと聞き、自分があの結婚式場で式を挙げたいと龍羽に言ったことを思い出す。浮気などではなかった。華恋は自分のために動いてくれていたのだ。

「零、本当に申し訳なかった。だけど華恋さんは俺のことをそういう目で見ていない。華恋さんが心から想っているのはーーー」

「兄さん、やめて」

龍羽の言葉をぼんやりと聞いていた零は口を開く。零は涙を拭うと、ベッドから立ち上がった。

「兄さんから華恋が抱いている気持ちは聞きたくない。華恋本人から聞く」

「ああ、そうしてくれ」

電話の向こうからは、安心したような声が聞こえてくる。きっと彼は電話の向こうで微笑んでいるのだろう。

「夫婦はずっとお互いが遠慮し合ってるよりも、きちんと気持ちをぶつけることができる関係がベストだよ。……例えすれ違ったり、喧嘩になってもね」

龍羽は優しい口調で言い、零は「そうだね」と頷く。華恋はいつもどこか遠慮していて、本音を隠している。心の内側が見えなければ、次に進むことはできない。
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