この政略結婚に、甘い蜜を
男性の一人が焦ったようにそう言い、他の男性たちも拳を握り締め、ある者はどこから出したのか長い棒などの武器を手に、零に向かって走り出す。

多勢に無勢という零に圧倒的に不利な状況だ。だが、零は動じることなく構えを崩さない。顔色一つ変えることなく男性たちを倒していく。

「強い……」

華恋の胸がギュッと締め付けられる。すると、華恋を拘束していた男性は舌打ちをした後に「クソッ!」と言い、華恋を乱暴に突き飛ばして逃げていく。

「あっ……」

地面に倒れる、そう思い目を閉じた華恋だったが、痛みが体を走ることはなかった。温かく優しい腕が体を抱き止めてくれたからだ。

「華恋、大丈夫?」

華恋が目を開けると、視界いっぱいに不安そうな表情をした零が映る。零の瞳を見た刹那、華恋の視界がぼやけていく。

「零さん……零さん……零さん……!」

ただ彼の名前を呼ぶことしかできなかった。恐怖を思い出したこと、零が助けに来てくれた嬉しさ、温もりに包まれたことによる安心、色んな感情が溢れて形となっていく。
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