この政略結婚に、甘い蜜を
(まさか、今日出会った人とこれからあんなことを?)

ゾッとした華恋の顔を零が覗き込む。もう少しで唇が触れてしまいそうなほど近い距離に、華恋は「ひゃっ!」と悲鳴を上げて後ずさる。

「いや、顔色が悪かったから大丈夫かなって心配になって……。お風呂、先に入って来なよ」

頬を長い人差し指でかき、零は笑いながら言う。だが、その笑顔はどこか不自然で、華恋には感情を必死に殺しているように見えた。だが、それを口に出すことなく零の横を通り過ぎる。

「お言葉に甘えて、先に入ります」

「……うん」

返ってきた返事が、どこか母親に置いていかれた子どものように思える。だが、何故彼がそんなにも寂しそうにするのか、華恋には理解できない。

(どうせ、愛のない結婚なのに……)

一般家庭のものより随分と広いお風呂で少し心を落ち着かせた後、華恋は用意してあったパジャマに袖を通す。花音が「これ、私からのプレゼント!」と渡された箱に入っていたのがこのパジャマだったのだ。
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