この政略結婚に、甘い蜜を
どこか必死さを感じる零の声に、華恋は断ることができず、「わかりました」と返す。だが、ふと疑問に思う。この家にある家具は全て新しく、何か足りないものがあるわけではない。華恋の服なども、知らない間に実家から全て運ばれてきていた。

(一体、何を買いたいんだろう……)

左手の薬指に重みを感じながら、華恋は夢の中へと落ちて行った。



そして迎えた日曜日。華恋が目を覚ますと、昨日自分より後に寝たはずの零の姿は隣にはいない。

不思議に思いながらリビングに行くと、零はすでに着替えてキッチンに立っていた。おいしそうな匂いが部屋に広がり、フライパンで何かを炒める音やお湯が沸騰する音が響く。

「おはよう、華恋」

華恋に気付くと、零はニコリと笑い、出来上がったベーコンエッグを皿に盛り付ける。

「もうちょっとでご飯、できあがるから」

「あ、あの……すみません……」

華恋が頭を下げると、零はキョトンとした顔をする。何に対して華恋が謝っているのか、理解できていないようだ。
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