この政略結婚に、甘い蜜を
華恋の隣で花音が言った言葉は、間違いではない。幼い頃、華恋はこの結婚式場を見て、ここには自分の憧れていたお姫様が住んでいるお城だと思い込んでいた。

そのことを話すと、すぐに父親に「お姫様は住んでいないんだよ」と言われてしまい、軽く落ち込んでしまった記憶がある。だが、父親は美しいウェディングドレスの写真を華恋に見せ、こう言ったのだ。

「あの場所は結婚式場って言ってね、女の人はこういう素敵なドレスを着れるんだよ。一日だけお姫様になるんだ。そして、心から愛する人と永遠の愛を誓うんだよ」

素敵なドレスに永遠の愛、そしてお城のような建物は、幼い華恋に甘い夢を与えたのだ。目を輝かせ、華恋は「私、あそこでお姫様になりたい!」と言った。その時の幼い夢が、今叶うのだ。

(まあ、愛のない政略結婚だけど……)

どこか冷めた気持ちでいる華恋の前に、「本日は、ご結婚おめでとうございます」と言いながら、黒いスーツを着たウェディングプランナーが現れ、ペコリと頭を下げる。そして、華恋はウェディングドレスに着替えるため、部屋に案内された。
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