この政略結婚に、甘い蜜を
笑顔でウェディングプランナーに言われ、部屋に入って来た両親や花音たちも口々に「綺麗」と言う。だが、その言葉を言われるたびに、華恋の中には呪いのようにあの言葉が再生される。

『こっち見んなや、ブス!』

呪いの言葉が再生されると、自分の姿を見たくなくなってしまう。華恋が鏡から目を逸らしていると、ドアがノックされる。入って来たのはもちろん新郎の零だ。黒い燕尾服を着こなす彼は、きっとどの新郎よりかっこいいのだろう。ウェディングプランナーが頬を赤く染めている。

「華恋」

嬉しそうに笑った零は、椅子に座る華恋に足早に近付く。そして、華恋の頬に零の手が触れる。それはまるで、ガラス細工を扱うかのような優しい手つきだ。

「想像以上にとても綺麗だよ。世界で一番綺麗な花嫁だね」

どこかの恋愛ドラマのような台詞に、花音が「うわぁ〜、ラブラブじゃん」と真っ赤な顔をしてはしゃぐ。だが、華恋の心は騒ぐことはなかった。愛のない結婚だと思っているからである。
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