この政略結婚に、甘い蜜を
「……ありがとうございます」

ただそう言うのが精一杯で、華恋はグロスの塗られた唇を閉じる。そして目を逸らし、何も考えないようにした。その時、彼がどんな表情をしていたかは、華恋は知らない。

挙式の時間が近付き、零は「先に行くね」と言い部屋を出て行く。そして、神父が部屋に入って来て、ベールとは邪悪なものから身を守るためのものであり、娘を守る母親の愛の形であるという説明をされ、母親が華恋のベールを下ろす。

「……本当に綺麗よ。お姫様みたい。幸せになってね」

「……お母さん……」

泣き出しそうな顔で母親にベールを下ろされ、父親が待つ挙式場の前に移動する。父親に差し出された腕に自身の腕を軽く乗せ、華恋は扉が開くのを待つ。

「華恋、急に結婚の話を持って来てすまない。恋愛感情はまだないだろうし、本当はこの結婚が嫌なのもわかっている」

ふと父親が話し始め、華恋は父親を見上げる。彼はどこか寂しそうな、でも覚悟を決めた目をしていた。

「華恋、零くんから逃げずにちゃんと向き合いなさい。向き合えば幸せはやって来るから」

「……お父さん!」
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