この政略結婚に、甘い蜜を
「お、降ろしてください!」

周りからの視線が痛い。クスクスと笑う声と何やら英語が聞こえてくる。それが恥ずかしく華恋は必死で言ったのだが、零は「照れなくてもいいでしょ、夫婦なんだし」とどこか楽しそうに言う。

夫婦、その言葉に華恋の心から羞恥心やあらゆる感情が消える。キスすらしたことがない関係、政略結婚で愛はない。それなのに「夫婦」と言われるのがどこか辛く感じてしまう。

「……華恋?」

零に訊ねられ、華恋は慌てて「何でもないです」と言い大人しくする。足掻こうと思っても敵わないものはある。彼の手から逃れるのは無理だと判断したのだ。

高級ホテルのロビーは、天井から巨大なシャンデリアがぶら下がり、上質なレッドワインの絨毯が敷かれ、派手な調度品が並べられ、一言で言えば豪華である。

「すごいですね……」

ホテルに泊まっている人たちも、ブランド物を身につけたセレブだけである。華恋は思わず呟いてしまった。
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