この政略結婚に、甘い蜜を
「あの、部屋って……」

「一番いい部屋だよ」

エレベーターに乗り、そのエレベーターは最上階で止まる。そして連れて来られたのは、美しい夜景が見渡されるスイートルームだった。

「素敵な部屋でしょ?せっかくの新婚旅行だから、特別な夜にしたくて……」

頬を赤く染めて零は華恋を抱き締める。新婚旅行の特別な夜、その言葉の意味はーーー。

華恋が考える間もなく、頬に手が添えられる。零が目を閉じ、ゆっくりと顔を近付けていく。あと数センチで互いの唇が触れてしまう。

『お前と付き合うとか、結婚するとか、そんなこと考える奴おるん?おったら奇跡やよなぁ』

華恋は気が付けば、また零のキスを拒んでいた。零の口元に自身の手を当てている。それに気付き、華恋は慌てて「ごめんなさい」と言いながら離れた。

「……華恋は、僕のことをどう思っているの?どうしてキスをするのが嫌なの?」

零は悲しげな表情を見せる。華恋は「えっと……」と俯きながら後ずさるものの、すぐに壁に体が触れる。すると、逃げ道を塞ぐように零が壁に手を付き、華恋の前に立つ。
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