この政略結婚に、甘い蜜を
「こんばんは」

女の子は零に気付き、ペコリと頭を下げて挨拶をする。純粋な瞳と笑顔に零は目を見開き、女の子の隣に並んだ。

「こんなところで何してるの?お父さんたちはパーティー会場にいるんだろ?」

「うん、でも飽きちゃって」

女の子の言葉が零は信じられなかった。華やかな世界で生まれた者は、幼い頃から厳しく礼儀作法を教えられる。パーティーを途中で抜け出すなど、許されないのだ。……零はその許されないことをしているのだが。

「君、名前は?」

「花籠華恋よ」

花籠ね、と零は呟く。最近、急成長を遂げている成金グループである。由緒正しい家に生まれた零は、内心成金グループのことを鼻で笑っていた。だが、純粋な子どもは悪意や嫌味などは気付かない生き物である。

「お兄さんのお名前は?」

「鍵宮零だ」

パーティーホールに今もいるような女の子ならば、「鍵宮」と名乗れば目を輝かせて媚を売る。だが、幼い華恋は鍵宮グループがどれほど大きなものなのかわからず、「零さんね」とニコリと笑って言っただけだ。
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