この政略結婚に、甘い蜜を
だが、零の淡い期待と想いは打ち砕かれてしまう。華恋は零を避け、結婚式の愛の誓いも拒んでしまった。そのたびに無理やり笑い、心の傷を誤魔化す。

いつか、心から互いに愛し合えると信じて……。



零の話が終わり、部屋は静寂に包まれる。華恋は思い出そうとしたものの、綺麗なバラが咲いていたことしか思い出せない。だが、零を知らず知らずのうちに傷付けてしまったことだけはわかった。

チクタクと豪華な装飾が施された時計が音を立てる。華恋は零を恐る恐る見た。零はどこか寂しそうで、まるで家族とはぐれた子どものように見える。

「……ごめんなさい……」

静かな部屋に、華恋の声が消えていく。華恋はスカートを強く握り、もう一度口を開く。

「あなたを傷付けてしまって、ごめんなさい」

自分は大切に想っているのに、相手には一切伝わらない。それがどれだけ悲しく辛いことなのか、華恋には痛いほどわかる。

『お前みたいな女に好かれたって、メリットなんてないわ。恋愛は互いにメリットがある関係が一番やろ。せやで、お前は論外』
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