この政略結婚に、甘い蜜を
ポツリと、消えてしまいそうなほど小さな声で華恋は呟く。たったこれだけのことだというのに、体が震えて酷い言葉をかけられるのではないかと怯えてしまう。思わず華恋は目を閉じ、シーツを強く握り締めた。

だが、いつまで経っても零からは何の反応も返ってこない。華恋が不思議に思って目を開けると、目の前で零は両手で顔を覆っていた。その顔は赤く、耳まで赤い。

「……待って、やばい。予想以上に嬉しい!」

名前をただ呼んだだけでこれほど喜んでくれる人など、片手で数えるほどしかいないのではないだろうか。予想外の反応に、華恋の心は驚きで固まり、数秒後に温かくなっていく。

(何なのかな、この胸が温かくなる感覚……)

最近は、心が変に動いてばかりである。



今日は二人が珍しく揃った休日だ。休日が揃ったらどこかに出かけたり一緒に過ごす、というのがこの家のルールとなったため、二人は最近リニューアルオープンをした水族館へ行くことにした。

テレビで特集されているのを見て、華恋が「行ってみたいなぁ」と呟いたところ、零が「行こうか」と誘ってくれたのだ。
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