この政略結婚に、甘い蜜を
大勢の人がいる中でのアプローチに、華恋は恥ずかしくなって俯いてしまう。だが、すぐに「ねえ、こっち見て」と囁かれるように言われ、体がびくりと跳ねる。

零の声が、どこかいつもと違うように華恋には聞こえた。普段は砂糖菓子のようなふわふわとした甘さだとすれば、これは大人しか味わえないカクテルのような妖艶な甘さである。

(何これ……嫌でもドキドキしちゃう……)

「華恋」

零に名前を呼ばれると、体が痺れるような不思議な感覚が体に走る。どこか具合が悪いわけではないのだが、華恋は自分がおかしくなったのではと不安になってしまうのだ。

(この気持ち、どこかで感じたことがあるような気がする……)

認めるのが怖い。傷付いてしまうのが怖い。そんな思いからまた、呪いが蘇ってしまう。

『こっち見んなや、ブス!』

甘い毒は消え去り、華恋の心に残ったのは冷たい棘だけだ。心臓の鼓動がいつもと同じになったことに華恋はホッとする。

「華恋、ごめん。少し揶揄いすぎたかな?」

「いえ、大丈夫です……」
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