この政略結婚に、甘い蜜を
華恋が男性の背後からそっと前を見ると、電話を終えた零が威嚇する犬のように恐ろしい顔で男性二人を睨んでいる。

「薬指の指輪が見えないのか?その人は僕の妻だ。誘拐で警察に通報してもいいか?」

零に地を這うような低い声で言われ、男性二人は「ひっ!」と悲鳴を上げる。

「三秒以内に手を離せ。さもないと、潰すぞ?」

「す、すみませんでしたぁぁぁ!!」

男性二人は顔を真っ青にし、華恋の手を離して逃げていく。華恋がその後ろ姿をポカンと眺めていると、零の腕の中に閉じ込められた。

「連れ去られると思って、本当に怖かった……!」

そう言う零の手は微かに震えている。華恋は目に溜まっていた涙を拭い、零の背中にそっと腕を回す。

「……零さん、助けてくれてありがとうございます」

零が来てくれなかったら、今頃あの男性たちに何をされていたか想像するだけでも恐ろしい。華恋は零に微笑み、「大丈夫です」と伝える。

「一人にしてごめん。怖かったよね?もう華恋から離れないようにするよ。やっぱり、一人にするべきじゃなかったんだ。悪い虫が群がるのは当たり前なのに……」
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