この政略結婚に、甘い蜜を
ふと、階段の上から声をかけられる。独特のこの喋り方は、嫌でも誰なのかはっきりとわかる。華恋が階段の方を見れば、傑が面倒臭そうな顔をしていた。

「……」

嫌な奴に出会ってしまったと、華恋は黙って俯く。そんな華恋に対して傑はため息を一つ吐き、華恋に近付いてきた。

「何があったんか、どうしてほしいんか、それを言うてくれやなわからんのやけど」

「……助けてくれるの?」

華恋は正直に驚く。人と関わろうとせず、授業で行われる班活動ですらどこか横柄な態度を取り続ける傑が手を差し伸べてくれることが信じられなかった。まるで、夢のようである。

「ごちゃごちゃうっさいわ。さっさと何なのか言いや!」

夕焼けが校舎を照らしているからだろうか。傑の頬はどこか赤く染まっている。華恋は傑の口から出た大声に一瞬びくりと肩を動かし、ゆっくりと口を開く。

「……足、捻っちゃったみたいで動けないの……」

華恋がそう言いながら傑を見上げると、彼は「チッ!」と大きな舌打ちをして頭をどこか乱暴に掻きむしる。

「しゃあないな。ほら、おぶって保健室連れてったるわ」
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