この政略結婚に、甘い蜜を
(五百雀くんって本当は優しい人なのかな……?)

放課後の廊下、華恋の心の中に小さな恋が音を立てて生まれた瞬間だった。



人というのは摩訶不思議な生き物である。一人の人にだけ抱く特別な胸の高鳴りを、すぐに「恋」だと気付いてしまう。華恋も好きと自覚するのに時間はかからなかった。

傑は教室では横柄な態度を取り続けており、友達はみんな彼を毛嫌いしていた。だが、華恋は不器用な優しさを向けられたことが忘れられず、彼に少しでも自分を見てもらいたいと行動するようになった。

ファッション誌を漁って最新のトレンドをチェックし、メイク道具もお小遣いで買って練習をするようになった。そして、今までは関わろうとしなかったものの、挨拶くらいならと話しかけるようになったのだ。

「五百雀くん、おはよう」

「……はよう」

彼は本の方を見ていて、目が合うことはない。だが、挨拶ができるだけでも嬉しかったのだ。

(今日も挨拶できた。よかった……)
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