この政略結婚に、甘い蜜を
8、仲直りにカクテルを
傑と視線が絡み合った瞬間、華恋の脳裏に浮かぶのは、彼にかけられたひどい言葉の数々だった。それらはもう子どもの時の記憶だというのに、まるでつい先ほどつけられた傷のように痛みを発する。

「ッ!」

恐怖、痛み、苦しみ、マイナスな感情が一気に込み上げ、また頭の中が真っ黒に染まってしまいそうになる。

(ダメ。こんな街中で倒れたら……)

救急車で搬送され、家で華恋を待っている零は呼び出されることになる。そうすればまた心配と迷惑をかけてしまう。それが、今目の前にいる傑よりも怖い。

(私、どうしてこんなにも怖いの?)

不思議に思ってしまうが、このままここにいては倒れてしまうかもしれない。華恋は傑に背を向け、走ろうとした。

「待って!」

傑が素早く華恋の腕を掴む。刹那、ゾワリと華恋の体に寒気と恐怖が波のように押し寄せ、華恋の口からは悲鳴が出る。

「ご、ごめん……」

華恋が悲鳴を上げると、傑は手をすぐに離してくれた。学生時代、どこか傲慢な態度で人の怒りを買っていた彼が素直に謝ったことに、華恋は驚いてしまう。
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