この政略結婚に、甘い蜜を
「……わかった。話を聞きます」

華恋がそう言うと、傑はホッとした顔で喫茶店へと入っていく。華恋は少し帰るのが遅くなるということを零にメッセージで送り、喫茶店のドアを軽く押して中に入る。チリンとベルの音が響いた。

「いらっしゃいませ」

白髪混じりの店主と思われる男性が、コーヒーを用意しながらニコリと微笑む。それほど広くない店内には、華恋と傑の他にお客さんは三人ほどしかいない。聞かれたくない話をするにはもってこいだろう。

「お好きな席へどうぞ」

男性にそう言われたため、華恋と傑は窓際の目立たない先に座る。男性がお冷やをテーブルに置き、「ご注文が決まりましたらお呼びください」と言って席から離れた後、傑はゆっくりと口を開く。

「俺、ずっと後悔しとるんや。何であの時、あんなこと言うたんやろうって」

あの時、それは華恋が傑に想いを伝えた時のことだろう。華恋にとっては思い出したくない記憶の一つだ。

「私も、告白した相手にあそこまで言われるなんて、想像すらしてなかった……」
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